トロント最終日、夕方から会場に向かう。タクシーでは、今回の受賞式に向けトロント出発前に連絡をくれた仲間、役者、関係者の思いを感じていた。海外記者のインタビューに答えるプロデューサーの辻さん。そして上映後の慣れない英語スピーチでは日本人の死生観を精一杯届けた。(完全に朗読ではありましたが。笑)それ以上に今回の私の目的は、言葉や文化の異なる世界の人に、どの様に届くのかを肌で確かめる重要な機会と考えていた。作品のクライマックス、主人公ハルが海辺で舞うシーン。その舞う姿がこれまでにない程美しく感じた時、私は素直に嬉しかった。我々は、ただ万人受けする映画を目指したのではなく、自我を越えた、日本人における美の意志を常に追求し、その表現が後を生きる生の為にある活動であったと感じた。会場を後にし3人で乾杯し、自然とそのままディスカッションをしていた。それぞれに思うことはあると思うけど、仲間と思いを必死にぶつけ合い相乗効果し芸術に取り組み、そして、その成果物を世の中に届けるため更に話しあう。我々は一体、どれだけの思いと時間をこの作品に注いで来たのだろうか。ホテルに戻り、今こうして思いを綴りながら思うこと。それは、私にとってのこの作品が宝なのではなく、こうして、ひとつの作品に共に分かちあうことの出来る、そんな仲間こそが大切な宝なのだと言える。いつも本当に支えてくれている家族、仲間、協力者に心からありがとうを言いたい。そして、更にこれからも多くの苦労を共にし、希望を世に出していきたいと思う。そう。今の我々は結果が全てではない。それよりも前にいる。それは、この今というプロセスこそが全てであり、それが結果となると信じている。原理原則とはとてもシンプルなのだと。

出来た空き時間でトロント市内にある教会、図書館や美術館など様々な文化を求め歩く。なかでも聖ミカエル大聖堂はローマカトリックの大聖堂教会で、カナダで最も古い教会のひとつ。中に踏み込めば自分の奥と自然と向き合うことの出来る場所でした。よく神話や古代からの書籍をよむたびに思う事の一つに、言葉(活字)では、文明や文化の異なるフィーリングや認識にとても大きな溝が生まれることがある。そして、翻訳では更に大きくその方向性が商業をベースとした本質と離れた目的に向く不自然さがある。今回、こうして身を通じて感じる建築や造形物には、人の動きや音を操る。そして、壁画やステンドグラスによる絵画。それは一人ひとりの知識レベル、精神レベル、霊的レベル、それぞれの心理状態によっても映し出すものが異なることが重要であると感じた。私は、高揚した自分の気持をおさえ、しばらく腰掛け、かつての人は何を思い、何を願いこの場所を創造したのかに身を寄せた。そして、その中に自らを問うことをした。しばらくして意識は高貴な状態へと向上し、自分の振動をしっかりと捉えていた。その地を支える宗教感や精神性はとても大切なことなのだと思うと同時に、自らの哲学と、その上での芸術の役目を何より強く感じた。夜は他の受賞者4種の受賞作品を見に会場へ。とても充実した一日でした。

この度、映画「BAKEMONO」がオープン・ワールド・トロント映画祭でEXPERIMENTAL部門グランプリを受賞し、本日より三日間トロントに滞在しております。今回の授賞式には私、プロデューサー、プロダクションデザイナーの3人で足を運ぶことができました。到着初日、夕方から早速会場に足を運び、その後、ホテル近くのパブで旅の始まりを祝っての乾杯。なぜだか気がつけば、周りが男性同士のような、女性同士のような。やけに優しくソフトタッチをしてくる店員。翌朝、目が覚めるとホテル前の交差点がレインボーになっているのを知る。私たちは気づかずにレインボーエリアにお邪魔をしていたよう。いやー知らないのってほんと怖いね。ナイスチョイスでしたよ辻さん。

いつもお世話になっている農業機械メーカーの撮影のため島根県に来ています。偶然にも今年、4月に撮影した短編映画「ヒノイリの風」で訪れた島根県松江市という同じ場所に、今回はお仕事のご依頼で足を運ぶことができた。起業した約10年ほど前、よくやりたい事とやっている事が重なることを求めていたが、今こうして全てが繋がっていることを感じます。この与えられたお仕事に感謝をしながら、何よりも楽しみ、しっかりと返していきたいと思います。撮影最終日、出雲空港に向かう前に立ち寄った、島根最西の日御碕神社下之宮。ここは夜を守護する日沈宮と言われる地。まさに映画のタイトル、「ヒノイリの風」はこの地のことだったのかと、当事者にして後で知るという時系列のシャッフルされた出来事。それだからこそ時空をこえた意識の物語は面白い。

現在制作中の短編映画「ヒノイリの風」のレコーディングのため、愛知県碧南市にある芸術文化センターエメラルドホールへ。素晴らしい作曲を仕上げ、そのスコアを素晴らしい音で記録する作業。この作業で、音に空気が宿り、そこに間に生まれた振動は環境を生きた存在に変える。そのプロセスから、曲に翼がはえるのを体感した。当日、録音を担当してくれたプロデューサーの長江さんは、今回、この映画には、このエメラルドホールを選び、そして素晴らしい、アーティスト、エンジニア、環境という設計で、見事な録音の芸術と哲学を体験させてくれた。素晴らしい楽曲を作ってくださった原田さん、宗田さん。素晴らしい録音をしてくださった長江さん。また、ご協力頂きました皆様に、心より感謝申し上げます。早くこの曲を多くの人に届けたいと強く感じています。

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